こんにちはLifehacking.jpの堀です
このほど、ここ2年ちかく取り組んでいた研究を論文として投稿することができてホッとしているところです。もちろん投稿しただけでは業績にはならず、これから長い査読の戦いがあるのですが、投稿できたこと、それ自体が一つの安心になります。
思えば初めて論文を投稿したときにも、博士論文を提出したときのも、この安堵の気持ちがやってきていたのを記憶しています。不可能だと思っていた作業を達成することができるのだ。自分には可能だったのだと確認できたことの喜びといってもいいでしょう。
似たような安堵と喜びは、本を書けたときにもやってきます。難易度の高い本を読むことができたときにも。それはいつ到達するのかわからなかった山頂の風景がついに眼前に広がり、新しい地平に立った事実を噛みしめるときの気持ちに似ています。
仕事であるからには達成できることは大切です。努力しても達成できなかったことを、世界はなかなか評価してくれません。だからといって達成できるとわかりきっていることだけを回しているのでは、新しい地平は見えてきません。この「できるとわかっているもの」と「できるかわからない」の両方にまたがった場所に、挑戦しがいのある充実した仕事があるのです。
一つの論文を書けば、次の研究と論文が待っています。作業としての仕事には終わりがあっても、わたしたちが手掛ける人生の「仕事」には終わりはありません。成長だけに意味があるとはいいませんが、私たちが無為に過ごしていないことを実感できるのは、「できること」と「できないこと」の境界にあるものなのです。
次のプロジェクトのためのツール選び
さて、論文とはべつの仕事になるのですが、ちょっと大きめのプロジェクトをいま準備中でわくわくとしながら情報を集めています。これまでやってきた書籍執筆ではなく、資料を横断して書かなくてはいけないタイプの仕事になるため、どうすれば全体像を見失わずに情報をまとめられるのかが一つの鍵になっています。
情報カード
仮に、このプロジェクトを日本中のとある言い回しをまとめるといった、文化的フィールドワークだと考えてください。すると一番伝統的なやりかたはカードになります。
採取した事例を一つ一つカードにして、カード同士の関係を少しずつ醸成してゆく。こうした知的生産にもまだまだ活躍の場はありますし、むしろカードで実現できない知的空間は他のツールでも難しい面があります。
Evernote
情報カードをデジタルにしてみると、Evernoteに近くなります。すでに多くの別のツールがあるのでEvernoteはもう古いと思われがちですが、情報を断片化して大量に保存することにかけては、実はnotionも他のPKMツールもEvernoteに比べて明確な利点はありません。notionは整理に手間がかかるうえに検索性が低いですし、Markdownを利用したLogseqやObsidianは画像などのファイルを外部的に扱わなくてはいけないなど、トリッキーでマニアックな部分があります。
ただし、情報同士の関連性を表示したいと思った場合、Evernoteは極端に使いにくくなります。「AというノートはBというノートと関係している」これをわかりやすく管理できないのは、Evernote最大の欠点であるといってもいいでしょう。もう何年もこれは放置されているので、今後もあまり変わることは期待できそうにありません。
Logseq
最近わたしが日常的に利用しているメモツールはアウトライン形式で情報をめとめてゆく Logseq です。Roam Research や Obsibian に似ていますが、アウトライン形式で、手元にMarkdownファイルで保存してゆくところが違いますし、オープンソースのプロジェクトという安心感もあります。
Logseqは主にアウトライン形式で情報のネットワークを残してゆくための場所です。情報そのものをすべてここに書くのは煩雑すぎるという欠点はありますが、情報と情報同士の関連性を記述するのにこれ以上便利なツールもありません。
Craft
Craftはメインで利用しているツールではないのですが、Evernoteのようなクラウドツールの良さと、Logseq / Obsidian のような PKM ツールのもっている良さを組み合わせたサービスで、しかも notion ほど維持するのに手間がかからないというメリットがあります。
Craftでは情報をEvernoteと同じようにデジタルなノートとして記述していきますが、任意の場所にカード形式で別の情報を挿入することができます。もちろんバックリンクやカード間の連携も可視化されますので、ちょうどEvernoteとLogseqのよいとこどりができます。
もっとも、そこまで人気があるサービスとはいえないため、あまり依存しているとなくなってしまったときに困るのが悩みどころです。
これから何年にわたって知識をためていき、知的生産をしようと志しているひとがいたとして、今日これだけのツールがあるのは幸せなことである反面、どのツールが時間と労力を預けるに値するのかわからないというジレンマがあるでしょう。
情報カードのように分節化していて、一つ一つの断片を知的な単位として吟味できるタイプのツールがいいのか。それとも知識のネットワークを網目のように広げていき、継ぎ目や境目のない情報の総体を育ててゆくタイプのものがよいのか。簡単に答えはでてきません。
私の場合は、一つの指標にしているのが「情報は断片化する」「思考は敷衍する」という分け方です。たとえば「ウェブサイトでみつけた情報」はわざわざLogseqに取り込むのではなく、Evernoteに保存して表題とリンクをLogseqに書き込みます。そしてそれに対する感想はLogseq側にハッシュタグとともに書き込んでおくと、思考はLogseq側でつながっていき、情報はリンクをたどってEvernoteで読めばいいことになります。
まとまった文章はObsidianに書いておき、それをLogseqからリンクするというのでもいいでしょう。二つはライブラリを共有することもできますのでシームレスに使うことも不可能ではありません(おすすめはしませんが)。
一つのプロジェクトがどの段階にあるかによっても、使うツールは変わってきます。ツールが主役ではなく、最終的な成果のためにツールが選ばれるからです。
断片と敷衍。私たちの不完全な脳と思考を補完するためのこの二つの機能をどこにまかせるかによって、知的生産の射程が決まってくるのです。
今週買った本
過ごしやすい季節になりましたので、その日の仕事が終わっている夜は読書がはかどります。それでも追いつかないくらい買ってしまっているので反省なのですが、どうしてもほしいのだからしかたありません…。
それはたとえばこちらの本! 1976年刊行開始の「世界探検全集」の復刻版が河出書房新社から登場しています。読みやすく書いやすい版で全16巻。先行予約したひとには非売品の17巻もついてきます。
「世界探検全集」はそれこそわたしが大学生だった1990年代にはすでに手に入りにくくなっていたので、今回の復刊は嬉しいわけです。監修には井上靖や梅棹忠夫など、懐かしい顔ぶれ。そこに現代の探検家などの言葉が解説で加わっています。
こうした本はなによりも子どもたちにとってもよい買い物になります。帯に「探検とは知的情熱の肉体的表現である」とあるように、世界を探検するのは高度に知的な生き方で、それにたいするあこがれを掻き立てるのは大人の努めといっていいでしょう。
第一回配本はマルコ・ポーロの「東方見聞録」と、悲劇のスコット隊について書かれた「世界最悪の旅」。これから毎月の配本が楽しみです
ロシアのウクライナに対する侵略で部分的な動員が始まったというニュースを、教室から引っ張られてゆく学生の話や、家族と別れる遠いシベリアの田舎に住んでいる男たちの姿をみていると、そもそもなぜ住んでいる国歌の命令に従わなければいけないのか、社会システムは監獄ではないかということを考えていました。
では牢獄・監獄とはなにか。それは規範から外れた例外を管理するための場所ではなくて、社会がなにを監視し、何を排除するかのシステムであり、まさに私たちの社会を外側から規定しているものではないのか。そうした疑問をぶつけるなら、やはりこの思想家しかいません。
長い探索になりそうですが、これはさけてはとおれない。そういう読書だと思って、特に静かになった夜更けにページをめくっています。
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では今週はここまで!