こんにちは、Lifehacking.jp の堀です。しばらく休止していましたが、あらためて「ライフハック・ジャーナル」を再開したいと思います。
ここ二年ほどで職場も住んでいる場所も二回変わった影響もあってなかなか心の余裕がなく、一時期は精神的な負担に危険を感じたので活動量を減らしていたというのもありました。いのちだいじに、というわけです。
また、ライフハックというテーマをとりまく環境自体がゆるやかに変化していて、昔と同じようなブログの書き方はできない気もしていました。去年、「ライフハック大全 プリンシプルズ」を刊行することで、ひとまずこのテーマについては区切りをつけられたと思っているのですが、未来に向けて何を生み出してゆくのがいいのだろうかという課題が宿題として残った形になったのです。
哲学とテクニック
「ライフハック大全 プリンシプルズ」でも書いたように、ライフハックは人生をゆるやかに変えるような小さな習慣のことです。長期的な方向性を主体的に選ぶ思想的な部分と、それを習慣やテクニックやツールを利用して実現するという実践的な部分が混じり合った、生き方の一つのパターンです。
ライフハックはすべての時代に通用するなにか真理のようなものが存在するわけではなく、常に環境にあわせて最適なツールを選ぶ性格をもっています。たとえば情報整理につかわれる「情報カード」をとって考えるとわかりやすいかもしれません。
梅棹忠夫氏や、ニクラス・ルーマン氏が実践していた情報カードの使い方にはいまもファンも多いですが、ブラウザやスマートフォンのアプリを通して大量の情報が流れてゆく時代において、一枚一枚たんねんにカードをつかって情報を書き写して整理するのはあまり非効率であるだけなく、問題解決になっていません。
これはカードの有用性が否定されたわけではなく、時代の変化にともなう情報量と流通方法の変化によって紙が最適でなくなったという話です。馬は今も昔も人間より早く走れますが、世界はもう車に最適化されています。それが馬がもつ良さや文化の喪失であったとしても抗うことは不可能です。
情報カードの有用さはかわらないし、哲学はそのままでも、紙カードの有用性は限られた特殊なケース以外では環境が許さない。こうした変化がライフハック全体に起こっているといってもいいのです。
クラウドを仕事で利用するのも、スマートフォンを使用するのももはや常識で、それ自体が仕事の一部分となってしまうと、もうそれはライフハックではないというのと同じように、多くのテクニックや知識が環境の変化によってとりこまれて、無効化されてきました。
たとえばスマートフォンでメールや原稿を書く人がまだまだ少なかった2010年代初頭なら、それは生産性を向上させ、通勤や待ち時間の一瞬を知的に利用するテクニックとして意識されていましたが、いまではそれは逆に常識化してしまったためにあまりにそれを追求するのは逆にどこでも忙しくしている負の側面が強くなります。
必ず残る考え方と、その時代に合わせた実装
こうして一つ一つのライフハックやテクニックを吟味してゆくと、哲学として継承されてゆくぶぶんと、時代にあわせて実装がカスタマイズされるテクニックの部分が区別できるようになっていきます。
たとえば我々が仕事や生活をする以上、そこにはなにかのアウトプットが伴いますが、そうしたアウトプットを可能にするための情報のインプットと整理方法が必要であること、つまりは「情報整理」「知的生産」はテーマとして必ず残ります。
一日が24時間しかなく、人間の体力・精神力には限界があることは決して変わりませんので、時間と集中力の配分方法もテーマとして必ず残ります。それが具体化したのが時間管理やタスク管理というわけで、さらにそれをニッチに仕立て上げればGTDなどのようなものも生まれます。
このような「哲学」と「テクニック」をよりわけて分類しておくことが、次の10年に向けた準備として必要であると感じて、今年の下半期は Lifehacking.jp のすべての記事のカテゴリ分けを再分類しようと思っています。
例として、昔ならば「ウェブサービス」として分類していたような記事も、ウェブサービスを使うこと自体に意味がなくなったいまは「情報整理」や「集中力管理」といったように、より長期的に残る哲学のどこに関わっているのかを整理する必要があるわけです。もはや必要なくなった記事はアーカイブに追いやり、今でも有効なものだけをもう一度カテゴリーとタグの中で手繰り寄せることができるようにしておければと思っています。そして可能ならば、これらの記事をいくつかリライトして電子書籍にできればということも考えています。
最近、VRのなかで自分よりもずっと若い人々の仕事ぶりや直面している課題をみていると、私たちの時代でも同じようにみた問題が形を変えて浮上しているのに気づくこともあります。このとき賢しげな古い記事を提供するのではなく、変わることがない哲学を今の言葉でもう一度語り直してこそ、新しい発見があるはずです。
今後なのですが、7月中に「ライフハック・ジャーナル」でも有料サブスクリプションを開始しようと思っています。とはいっても、完全に有料記事だけというのではなく、情報密度が高い記事の部分は無料のまま、近況や音声メディアといったように、私信に近い記事のみを当初は有料扱いにしようかと考えています。そのあたりもおいおい決められれば。
最近のトラック
作業用に聞いている音楽を定期的にご紹介しようかと。ノリノリのチップチューンで作業を進める週もあれば、Lo-Fi Girlで時間を忘れることもありますが、今週はなんとなくSpotifyの静かめのリストであるJazz for Readingな気分。
その冒頭のDonald Minestra "A Certain Smile" が、過ぎ去る日常の風景を引いたカメラから切り取っているようで今週の気持ちにマッチしていました。
"A Certain Smile"は1959年のジョニー・マティスの流行歌。エルヴィスの活躍したあの時代にありがちだったロマンティックな曲です。
But in the hush of night, exactly like a bitter sweet refrain
Comes that certain smile, to haunt your heart again
公式ツイッターアカウントを見つけたのですが、なんと86歳にして今年も全米ツアーを予定中とのこと。想像するだけで元気が湧いてくる話だと思いませんか。
最近の記事
記事では紹介し忘れていますが、サウンドスケープについての体系的な説明についてはマリー・シェーファーの「世界の調律」が、世界を別の視点で見せてくれる稀有の本ですのでおすすめです。ちょうど新装版がでたところですので、お求めやすいと思います。
最近のツイート
6月はみょうにバズるツイートが多かったのですが、この話題がなかでも反響が大きかったですね。これについては近日中にここでフォローアップしたいと思います。