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Evan WilliamsがMediumトップから退任

mehori.substack.com

Evan WilliamsがMediumトップから退任

個人ブログを牽引してきたシンボルが消え、どのような未来がやってくるのか

堀 正岳 (@mehori)
Jul 15, 2022
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Evan WilliamsがMediumトップから退任

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英語には “Slow motion car crash” 「スローで見ている交通事故」という表現があります。運命づけられた破局に向かって映像がゆっくりと、しかし確実に進んでゆく様子をなぞらえた言葉で、さまざまな努力のかいもなく悪い予感のとおりに失敗が訪れる際に使われます。

連続起業家であるEvan Williams氏がMediumのトップから退くというニュースがやってきたとき、私が想像したのもこの言葉でした。Mediumが生まれて約10年。それは、ブログという媒体がゆっくりと死に漸近してゆくのを見続ける10年でもありました。

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Evの退任はどういう意味をもつのでしょうか? ブログのような「読む」媒体には未来はあるのでしょうか?

Evの10年とMediumのピボットの数々

シリコンバレーでは Ev と短く呼ばれるエヴァン・ウィリアムズ氏は、もともとBloggerというウェブサービスを開発し、そもそも「ブログを書く人」という意味での「ブロガー」という言葉を生み出し、この世界を当初から牽引してきた人物です。

BloggerがGoogleに買収されたあとはポッドキャストの会社であるOdeoを設立、さらにBiz Stone氏とともにObvious社を立ち上げますが、このObvious社のプロジェクトの一つがのちのツイッターで、Ev は確執のあったJack Dorsey氏にかわって2008年から2010年の一時期CEOも務めていました。

ツイッターを離れた Ev がMediumを立ち上げたのは2012年の8月のことです。当時の記事を読み返すと、Evが140文字のツイッターが表層的な言論と希薄なつながりしか生み出せないことに苛立ちに近いものを感じているのが見て取れます。

Welcome to Medium | Medium
https://ev.medium.com/welcome-to-medium-9e53ca408c48

より深い洞察をしっかりと字数をかけて表現し、それをアルゴリズムの力を使って必要としている人々に届けることができるならば、豊かな言論プラットフォームを作れるのではないかというユートピア的なビジョンも見て取れます。

ブログのように書き、ツイッターのようにシェアされ、ユーザー同士の文章を通したインタラクションもある未来のメディア。そんな夢が描かれているのです。

しかしその後のMediumの道のりは厳しいものでした。これを振り返るのには、2019年にNiemanLabでLaura Hazard Owen氏がまとめたMediumの膨大な紆余曲折が参考になります。

The long, complicated, and extremely frustrating history of Medium, 2012–present | NiemanLab
https://www.niemanlab.org/2019/03/the-long-complicated-and-extremely-frustrating-history-of-medium-2012-present/

スタートアップが多少のピボットをするのは仕方ないとして、それにしても多すぎじゃないの?というわけです。ほんの少しを挙げるだけでも:

  • 広告モデルの導入でBMWの広告がサイト上に登場

  • 小規模出版社むけのパブリッシング機能の登場。OwlやElectric Litのような有名サイトがいくつか移行(うちのブログでも記事にしました)

  • サードパーティーのPublication向けに有料サブスクを開始

  • 広告モデルをとつぜん廃止

  • すべての有料投稿を月$5で読めるメンバーシップ機能を導入。有料サブスクを提供していたパブリッシャーたちの怒りを買っていくつかは撤退

  • SnapchatのようなSeries機能が登場(これも記事にしましたね)

  • Facebookのいいねボタンのような「Clap」ボタンの導入。その数によって有料投稿の収入が決まるモデルに

  • 有料メルマガサービスの開始(Substack対抗)

  • オーディオ関連企業Gloseを買収

という具合にです。テクノロジー・ジャーナリストのSarah Lacy氏はEvについて「リスクを恐れるあまりに、Mediumがパブリッシャーなのか、プラットフォームなのかについて常に迷っている」と評価していますが、これは正当だといえるでしょう。

内部的にもMediumの記事はGoogleやFacebookを通してやってくるPVに依存しているというデータがあり、独立したパブリッシャーというよりは、SNSプラットフォームのように振る舞って新機能を導入しなければ生き残れないという側面もあったのかもれしれません。2020年にはGoogleの検索アルゴリズムの変化のせいで、Medium全体のPVがガクッと落ちたという報告もあります。

今回の退任について、Casey Newton氏は自身のSubstackで「Evはついに諦めた」と評しており、Medium社内の複数の社員の証言を通してEvが状況をリードするというよりも、業界の動きにゆっくりとしか追随できていない様子について指摘しています。

Platformer
Ev Williams gives up
Few tech CEOs can claim to have steered the course of online conversation more than Ev Williams. In 1999 he co-founded Blogger, which helped to take blogging mainstream with a well designed, free tool that sold to Google four years later. In 2006 Will…
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8 months ago · 54 likes · 1 comment · Casey Newton

有料サブスクモデルをもっと推し進めるべきなのか、もっとシェアしやすい、SnapChatやTikTok的なメディアを目指すべきなのか、プロの出版社にきてほしいのか、個人のための発信の場なのか。

Evが常に迷い、悩むうちにMediumは世界の動きに遅れた、千鳥足でしか動けない企業になってしまったのです。

ではブログはどこにいくのか?

このこと自体は、すべてがEvの責任というわけではありません。

記事を読まずにタイトルだけで反応し、ハッシュタグだけでバトルを繰り広げるツイッターのようなサービスと、じっくりと読んで深い意見を構築することを目的としたMediumのようなサービスは水と油のようなもので、それを融合させようとすること自体に無理があったという側面もあります。

また、この10年は書かれた文字から動画、しかも短時間のシェアしやすい動画へとメディアの利用が変化した時代でもありました。

YouTubeですらTikTokのように意味もわからず次々にやってくる動画を右から左に回すことをユーザーに強いる時代に、「ゆっくりと記事を読もう」と呼びかけるのは時代への逆行そのものだったのです。

Mediumはブログそのものとは言えないかもしれませんが、ブログ的な、ユーザーが参加できる文章のメディアの未来を描き出すはずでした。そのMediumからEvが離れてしまうのは、象徴的なできごとといえるのです。

では、ブログ的なメディアの未来はどうなるのでしょうか?

Ev が去り、Mediumに長く携わってきたTony Stubblebine氏がCEOになることで、ひょっとすると Ev がとれなかったリスクをとるようになり、会社として面白い方向に流れ出す可能性はゼロではありません。

ポッドキャスト、動画、メルマガ、ブログ、連続ツイート。そういったメディアの総合デパートを個人のプロフィールに紐付けるような言論プラットフォームとしてMediumがもう一度面白くなる可能性に期待してもいいでしょう。

でも、長い目でみると、ブログはやはり「死に続けている」状況は変わりません。

死に続けるブログと「どこに書けばいいのか問題
https://medium.com/mehori/where-to-write-ec1621ed1cf9

これはもうブログが終わりだとか、ブログを書く意味がなくなったという意味ではありません。そうではなく、2004-2010年ころと同じ意味ではもうブログが書けないという意味です。

端的にいうなら「ブログでマネタイズしてどこかにいける」「ブログで権威や人気者になれる」といった、ブログがメディアとしてもっていた初期のログインボーナス的な部分がなくなり、より広く「ネットの中でなにを届けている人なのか」が可視化される方法が多様化した結果といえるのです。

正方形の写真の時代、動画の時代、TikTokの時代があるというよりも、メディアそれぞれに出口があって、ユーザーとクリエイターはそれぞれのアプリに集中しています。ツイッター、TikTok、YouTubeといったようにわかりやすいアプリがあるメディアは注目されますが、ブログにはそういったものはない。それだけのことです。

ではブログに意味がないかというと、そういうわけではありません。ただ、YouTubeやTikTokと同じような、それに対抗できる力も意味も、もはやないということです。

そのかわり、文章には時間を越える役割があります。

今回のニュースレターで10年前からの記事を引用したように、過去から現在へと思考の流れを可視化し、その場その場で反射的に反応しているのではない言論を維持できるのはブログのような文章のもっている大きなメリットです。

なにか事件があったときに、検索が楽で文脈をもって引用されるのはまだまだ文章のもっている強みでもあります。

このように、ブログはより背景にとけこみ、その人のネット上のすべての活動を包み込む役割に変化してゆくのでしょう。

ブログはその人が生きてゆき、ネットになにかを残してゆく足跡のようなものになりつつあります。

足跡は、よほど珍しいものでない限り、そのとき注目されることはまれです。それは時がたってから、振り返ってはじめて意味を持つのです。

今週のトラック

EDMを狂ったようにSpotifyで聞いていた時期があったのですが、Spotifyのいいところはアルゴリズムによってそういったジャンルをきいていた人々がいまはどこに向かっているのかをサジェストしてくれるところです。それが気に入ったら「お気に入り」にいれ、まだそのタイミングでないなら入れないというタイミング次第で前後はするものの、やがては別のジャンルにも目が開いてゆくところがSpotifyのRadioを中心に聞くことの心地よさです。

そんなサジェスト機能を通して最近は San Holo の"BB U OK?" とか、Porter Robnisonなどがわたしのヘッドホンに流れてきます。ちょっと仕事の山を超えつつあるので、リラックスしてきたのかもしれませんね。

今週のコンテンツ

アルゴリズムまかせの情報収集をリセットする | Lifehacking.jp

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今週のPixiv Fanbox

いま積んでいる7冊の本 | Pixiv Fanbox

今回はちょっと暴走しすぎてしまったので反省(笑)

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